◆ 何を終わりとして

思いに尽きる事は無くて。
光が差し込んだ先の闇はまだ、在る。

納得できて終われるならこの気持ちは要らない…。

わかっている。
けど納得するのはまた違う。
きっと笑ってる。
自分を殺した相手すらきっと笑って受け入れてる。

でも俺は、笑えない。
心が終わりを告げても何かが笑うことを拒んでいるようで。





― 何をもって終わりとするだろう？





◆ある一室にて。
いつものように机に向かい一息つけば、静かな部屋に木霊する。
行き場のないため息とも言える一息が何度も続いた。
すべき事に手はつかない。
しなければ、と思うほど手は動かない。
「…ったく…嫌になるな。」
グダグダな自分自身が。
そう自分に嘲笑して見せた。

戦いが終わって、話によるとあいつも死んだらしい。そう、聞いた。
生きてたならそれは姉貴の望みだったろ、多分。
死んでたって受け入れただろ…捨て置けない性格だから。

そう、姉の生きてた頃を思い返しては懐かしさを感じる。
戻らないもの。
会えない人。
聞こえない声。
半年以上経った今も変わらず実感がない。
あの性格ならある日突然、変わらない調子で帰ってくるのではないかと。

昔もそうだった。
勝手に出てって、再会も勝手だった。
面影が強すぎてまだ、別れが認識できない。
感覚で眠ったのだろうとわかるのに。

「…参るな…。」
沈みきった所で思考にストップをかけた。
「そういや…」
まだ報告してなかったな。

「………行くか。」

呟いて踵を返した。
ドアの向こうに人影は消えた。






◆進む為に
緑が多いその場所にそれはあった。
花が飾られている。沢山、沢山。

姉が眠るその場所。これから移されるはずの場所。


「姉貴、遅くなった。報告まだだったよな。」

墓石は何も答えず冷たい岩肌を輝かせている。
「寝てるの邪魔するなって姉貴は怒るんだろうな。」少し笑って、言葉を繋げた。

「終わった、あいつも多分そっちだ。」
―おつかれさま。と。
聞こえない答えを一呼吸だけ待った。

「けどさ、俺が終わってない。」
―あんたらしくないね。と。
きっと言われるだろうなと思った。

「残された奴は如何生きたらいい？」
―好きに生きたらいいんだよ。
………そう、言うよな。




「………。」
思えば思うほど絡まる。
けど、わかるのは姉貴は色々やり残したんだろうなって事。
きっと弥希にも会いたかっただろうな。
たくさん遊びたかっただろうな。
能力者として何か成し遂げたかったよな。

そして、背負ってた罪悪感…無くしたかったよな。
そう、俺は最初から知ってた。
姉貴が抱えてた俺に対する負い目。
置き去りにしていった事実。
平気だったと言えば嘘になる。
ただ恨みはしなかった。
まだ小さかった子供には少し寂しかっただけで。

深く背負い込むことでもない、そう言いたかった。
けど、どうにもできなかった。
言葉が最後まで見つからなかったから。
だからせめて気がすむようにと言葉は紡がなかった。

それで良かったのか、答えは今も出ない。



「…まっ、ゆっくり考えるわ。」
そうやっと口から出た言葉と一輪の深紅の薔薇を墓に添えてすぐに背を向けた。


―何をもって終わりにするだろう。



終わらない時間と紡がれていく時間と。
そして、いつか終わる時間。
彼方側に行くその時に答えは出るだろうか。
問いに自らの頭が結論を出す前に、止めた。

「また来る、姉貴。」

次は３月１０日に。
命が消え、また紡がれたあの日に。