「おめでとう。」
「え?」
突如言われた言葉に振り返って、怪訝な顔をしたのは彩希だった。
「いきなり如何したの?」
流石に不思議だったのか、そう聞き返して。
「いや、彩におめでとうって言ってなかったなーと思って。」
何事も無かったかのように淡々と話す遥斗に彩希は一つ溜息を。
「遥って本当にマイペースね。そしてね、今日は遥の誕生日でしょ?」
………。
「あ。」
気づいたのか遥斗からは気の抜けた一言が。
「そいや誕生日か。」
そうだったと思い出して、ふと思い過ぎったのは姉の事。
「姉貴も生きてたら誕生日だったんだよ、な…今日。」
「うん、やっぱり実感沸かないや。」
少しだけしんみりしてそれでも笑って。空を見れば変わらず青く優しい。
「生きてるってこんなに嬉しいんだな。」
姉の死で改めて思ったのはとても皮肉。けれど、思えた事にはとても感じる新鮮さ。
「そういえば頼からメール来てない?私の誕生日の時はウザいくらいのデコメメールきたんだけど。」
「……、メール?」
見てみてメールは数件。
1件目。自分の最愛の人から。顔は緩んでつい、微笑んでしまう。
どんどんと見て行って最後の1件。
………。
「見なかった事にしていいか?」
そんな一言に、
「良いとは思うけど、もう本人後ろに居るよ?」
「え?」
振り返った瞬間。
「兄~っちゃ………ごふっ!?」
抱きつこうとして返り討ち。
「五月蠅い。」
一件目のメールでいい気分に浸ってた。
それだけに台無しにされた気分の足すと対応は自然と冷たく…むしろ、いつも。
「何しに来た?」
「だって兄ちゃんがいつまでたっても返事くれないから、待ちきれなくってさッ!」
メールの時間を見れば届いてまだ一時間弱。
「お前な…」
呆れつつ弟の顔を見ればいつものように笑顔。
「へへっだってちゃんと言いたかったんだって、兄ちゃんにも姉ちゃんにもおめでとうってッ!」
「……姉貴は。」
もう誕生日なんて迎えられないと、そんな残酷な現実を口にしようとすれば、
「何だよー、誕生日は変わらないしッ。姉ちゃんだけ仲間はずれなんて可哀想じゃんッ」
少しむすーっとして兄を見る弟。
「頼ってさ、馬鹿だけど何か響くよね。」
そんな横槍と、
「そうだな、変に考えた自分が馬鹿みたいだな。」
結論。
「……?」
そして気付かないお馬鹿。
「さてと、今日一日何しようかね。」
「遥は結社でしょー?愛しの彼女に会いに。」
呟いた遥斗に彩希が一言。
「んじゃ、そうしようかね。それじゃ行くわ。お前ら俺の部屋に長居すんなよ。」
言い残して部屋を出た。
「……あそこまでさらっと行かれるとムカつく。惚気かあのやろう。」
「いいじゃん兄ちゃん灯那の姉ちゃん好きなんだしッ」
「駄目とかじゃなくて動揺すらしないのがなんというか!むむむ」
「彩姉って難しいよなーッ。」
あんたが単純なんだとは思っても口にしなかった。
平気になんてならないけど、忘れる事も無いのだけどそれでもその存在は此処にあって。
だから言う【おめでとう】と。
見えないだけできっと居ると信じてるから。
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